生命とは何か? 人工生命とは何か?
             

フランシス・クリック研究所所長のポールナース氏(1949年~)は、細胞周期(一つの細胞が二つの娘細胞を生み出す一連の事象、および周期)に欠損をもつ変異株の分離に成功し、特殊の遺伝子が細胞周期の主要な制御因子であることを発見し、ノーベル賞を受賞しました。



Major events in mitosis.svg

彼が辿り着いた「生命」の定義は、次の通りです。
1.「進化するもの」
2.「境界をもつ物理的存在」
3.「化学的、物理的、情報的な機械」

また、「ラングトンの蟻」で紹介したクリストファー・ラングトン氏(1949年~)は、人工生命を提唱した学者です。

「人工生命=Artificial Life=略称:ALife」といえば、近年「AI」と並び注目されている概念です。

人工生命は「Artificial Life and Robotics」とも言われますが、ロボットなどのような機械的なものだけでは有りません。
「人工生命=Artificial Life」は、細胞レベルでの自立的動きをする「人工生命個体」と言えるもので、最近、注目されています。

生命のパターン

自然界では、生命だけでなく、非生命現象にも色々なパターンが見えます。
これらのパターンは誰かが設計したのではなく、自然に生まれて出現したものです。
ここでは、パターン生成モデルとして「Gray-Scottモデル」と「SCLモデル」とを取り上げます。

★ まず、代表的なパターン生成モデルとして、「Gray-Scottモデル」があります。 「Gray-Scottモデル」には、「A:反応」と「B:拡散」のロジックがあります。





まず、「反応」です。

「A:反応」は、3つのルールよりコントロールされています。

1.A要素が一定の”feed” rateより追加されている
2.2つのB要素が、1つのA要素をB要素に転換できる(実質の化学反応)
3.B要素が一定の”kill” rateより減少されている

Chemical A is added
at a given "feed" rate.
Chemical B is removed
at a given "kill" rate.
RD feed A Reaction: two Bs convert an A into B, as if B reproduces using A as food.

RD reaction

RD kill B


次に、「B:拡散」です。
両方の化学物質が拡散するため、グリッド全体に不均一な濃度が広がりますが、A は B よりも速く拡散します。



stripe(f, k = 0.022, 0.051)


waves(f, k = 0.025, 0.05)


bubbles(f, k = 0.012, 0.05)


amorphous(f, k = 0.04, 0.06)


spots(f, k = 0.035, 0.065)


★★ 次に、「SCLモデル」を取り上げます。

「人工生命個体」をどのように創るか?生物の細胞を例に考えてみます。

細胞は膜に囲まれています。膜は細胞を外と隔離させますが、透過性を持つ組織のため、栄養など、ほかの物質の流出と流入ができます。

そのような機能を備えた膜があったこそ、細胞は個体として初めて成り立ち、生命になることが可能となります。

もし「ある細胞」が周囲の環境から完全に独立すると、安定の唯一状態になり、ポールナースの生命の定義1.「進化するもの」に該当せず、生命になれません。

もし「ある細胞」に膜がないと、その構造がどんどん変わっていくことになり、個体というコンセプトが存在しなくなります。

ポールナースの生命の定義2.「境界をもつ物理的存在」=細胞膜に相当するものと思います。

「Gray-Scottモデル」で色々なパターンを生成しましたが、パターンの模様が安定なので、パターンだけでは生命とは言えず、環境の変化に適応できる、ある程度の不安性が持つシステムでないと、個体の創発ができず、生命になれません。

そこで、これらの点を踏まえた『個体創発』の代表的なモデルにSCL(Substrate Catalyst Link)モデルがあります。

SCLモデルには文字通り、以下3つの種類の分子が存在します。

S:Substrate(基質分子)

C:Catalyst(触媒分子)

L:Link(膜分子)

また、膜分子のなかで、ほかの分子が存在することも可能です。

さらに、Gray-Scottのように、要素間の反応作用が適用されます。

但し、SCLモデルは6つの反応があります。

1.膜分子の生成:S + S + C→ L + C
(基質分子+基質分子+触媒分子 ⇒ 膜分子+触媒分子)

2.膜分子の分解:L → S + S
(膜分子 ⇒ 基質分子+基質分子)

3.膜間の結合:L + L → L_L
(膜分子+膜分子 ⇒ 膜分子_膜分子)

4.結合膜の崩壊:L_L → L + L
(膜分子_膜分子 ⇒ 膜分子+膜分子)

5.膜分子の基質分子吸収:L + S → L(S)
(膜分子+基質分子 ⇒ 膜分子<基質分子>)

6.膜分子の基質分子放出:L(S) → L + S
(膜分子<基質分子> ⇒ 膜分子+基質分子)

各分子はランダムで移動でき、各反応は異なる条件でそれぞれが一定の確率で発生しています。

例えば、2つの膜分子の結合確率について、以下の膜分子の状態に応じ、確率が変わります。

A.2つの膜分子ともまだリンクされていない
B.なかの1つの膜分子たけが既にリンクされていた
C.2つの膜分子ともまだリンクされている



1つの触媒分子だけの事例

(赤:Catalyst=触媒分子、緑:Substrate=基質分子、青:Link=膜分子)



もう少し基盤を広めた事例

(赤:Catalyst=触媒分子、緑:Substrate=基質分子、青:Link=膜分子)



以上のように、膜のリンクが出来たり、破壊されたり、修復されたりする、ほんとの細胞のような生成プロセスが見えてきました。

SCLモデルの示した結論として、「個体の構成プロセスが個体の存在を決める」です。

その一方、ロボットに自主的に行動させるためには、感知用センサーと行動用のモーターが必要で、この間の接続が行動の源となります。

この点こそ、自律的な「ALife」と「AI」とが違う点と言えると思われます。

人工生命=ALife

 

生成系AIの次は「ALIFE(人工生命)」へ
「生命とは何か」を探る研究の最先端レポート

 

inserted by FC2 system