卓越教授 十倉好紀教授(工学系研究科)             



研究業績内容

光誘起相転移現象の発見、電子型高温超伝導体の発見、高温超伝導物質の一般則の発見とその応用、フィリング制御モット転移系の物性研究、 酸化物巨大磁気抵抗(CMR)効果の発見と機構解明、モット絶縁体の巨大非線形光学効果の発見、有機分子性強誘電体の創製、マルチフェロイックスの巨大電気磁気効果の発見、磁気スキルミオンの観測と物性解明、トポロジカル絶縁体薄膜における量子伝導制御、など。

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こんな解説記事があります。

十倉教授の研究で注目されているものが2つあります。
1.法則「十倉ルール」の発見
  十倉ルールとは、高い温度で電気抵抗がゼロになる、「高温超電導体」に関する法則です。
  十倉教授は、超伝導体の分野で、「電子型高温超電導体」というものを世界で初めて見つけました。
  その発見が、十倉ルールの発見へとつながり、超電導物質の開発の基盤となっています。

2.新しい材料「マルチフェロイックス」の開発
  新材料マルチフェロイックスとは、
  ・電気で磁気的な性質が変化する
  ・磁気によって、電気的な性質が変化する
  という特性を持つものです。
  今までは磁気的な性質は磁気に、電気的な性質は電気でコントロールされると考えられていました。
  しかし、マルチフェロイックスではその縛りがなくなった、ということです。
  この研究によって今後は、消費電力の少ないコンピュータの実現が可能になるといわれています。

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こんな解説記事もあります。

神経細胞を一つだけ取り出してきて、そこに記憶や感情、意識がある、と言うことはできません。しかし、神経細胞が複数集まると、私たちの脳が行っているような、高度な情報処理が立ち現れてきます。そこには異なるロジックでしか理解し得ないような断絶、階層があります。はたしてこのような階層性は、神経細胞よりもずっと単純だと思われるような、「ただの物質」にも見られるものなのでしょうか?

1.創発物性

工学系研究科の十倉好紀教授(理化学研究所創発物性科学研究センター併任)は、大学学部生に向けた固体物理学(物質の性質を調べる分野)の授業を、「金属が鏡の光沢を示すのも、葉っぱが緑に見えるのも、そして、そもそもモノに色がつくということ自体が、すべて電子の動きのせいなのです。」という言葉から始めることにした、と言います。
どういうことでしょうか?

「電子の動きのせい」と言っても、ひとつひとつの電子が金属光沢を示したり、モノに彩りを与えたりするわけではありません。
そうではなく、電子の相互作用こそが重要である、ということが、この言葉が本当に意味することです。

物質をバラバラにしていった先のミクロの状態(原子の配列や原子同士の結合の様子、原子まわりの電子の振る舞い)を理解することで、物性(力学的性質、電気的性質、磁気的性質、光学的性質など)というマクロの状態が理解できると考えたくなるかもしれません。
しかし、個々の要素を集めた結果、全体として要素の総和以上の特性が現れる「創発」という現象が現れるとき、ミクロの状態に分解して理解していく還元主義的なアプローチはあまり有効ではなくなります。

先の言葉にある通り、物性は、電子の創発現象です。流行りの言葉を創るのが得意なんです、とはにかみながら語る十倉教授は、自身の研究分野を「創発物性科学」(=「創発」+「物性科学」)と呼んでいます。
物性を調べるのに、還元主義的なアプローチのみに囚われることなく、階層ごとに異なるロジックで理解していく必要があることを的確に表す名称です。

2.絶縁体のすぐ側の高温超伝導体

創発物性の代表例であり、物性というマクロな階層についての新たなロジックを示すことになったのが、銅酸化物高温超伝導体です(図1)。
一般に、電気が物質中を流れるとエネルギーの一部が熱として失われてしまいます。しかし、超伝導体ではこのようなエネルギーの損失がゼロ(電気抵抗ゼロ)になります。

図1: 超伝導転移温度に起きた革命<br>銅酸化物で、全く新しいメカニズムの超伝導が見つかり、臨界温度(超伝導を示す一番低い温度)が一気に高くなった。(2015年)



参考:その後の状況

Timeline of Superconductivity from 1900 to 2015.svg

十倉教授が高温超伝導体の研究に取りかかったのは、1年間IBMの研究所に留学した1980年代後半のことでした。

往時の通説では、金属が電気を流す性質を極限まで高めた先に超伝導があると考えられていました。

しかし、十倉教授の研究対象だった銅酸化物超伝導体では、電気をまったく通さない絶縁体のすぐ側で起こる創発現象として電気抵抗ゼロ(超伝導)が実現されるらしいことがわかってきたのです。

少し詳しく見てみましょう。
銅酸化物では、物質中の電子同士が強く相互作用した結果、電子が格子状の原子の上で固まった状態にあります。
物質がこのような状態にあることを指して、強相関電子系と呼びます。
このとき、電子は身動きがとれず、物質中を移動することがたいへん困難であり、超伝導とは真逆の絶縁体の状態にあります。
ところが、この状態の銅酸化物から電子を引き抜くと、規則正しく格子状に並んでいた電子が一気に溶け出し、ほぼ絶縁体だった銅酸化物が超伝導体になったのです。

絶縁体から電子を少しだけ引き抜くことで物性がガラッと変わる。
これは、少数の電子の状態に還元しても理解できない、まさに創発現象です。

3. 超巨大磁気抵抗とマルチフェロイクス

その後十倉教授は、様々な物質から電子を引き抜いたり、逆に少しだけ加えたりという実験を、チタンから銅まで周期表の順番に試していき、さらにおもしろい現象である巨大磁気抵抗を見つけ出すことになります。
実際、1990年代になって十倉教授は「ペロブスカイト」と呼ばれる特殊な構造の酸化物において、磁場をかけることで物質の電気の通しやすさが1000倍以上も変化すること、すなわち巨大磁気抵抗効果を発見しました。

図2: マルチフェロイック物質の概念図<br>磁場をかけると電気分極が発生し(左)、電場をかけると磁化が発生する(右)。<br>© 2015 東京大学

図2: マルチフェロイック物質の概念図
磁場をかけると電気分極が発生し(左)、電場をかけると磁化が発生する(右)。

さて、電場をかけると電気分極(物質の両端が正電荷と負電荷とに別れて電荷を帯びる現象)が生じ、磁場をかけると磁化(物質の両端がSとNとに別れて磁荷を帯びる現象)が発生するというのが固体物質に生じる普遍的な現象です。

そんななか、世の中には、磁場をかけると電気分極が発生し、電場をかけると磁化が発生する。そのような物質が存在するのではないか、と予言していた科学者がいました。著名なフランスの物理学者にしてマリー・キュリーの夫、ピエール・キュリーです。

磁場をかけなくても自発的に磁化が発生する強磁性体(磁石など)や電場をかけなくても分極する強誘電体の磁化の向きや分極の正負は、それぞれ小さな磁場や電荷で反転させることができます。一つの物質が強磁性体であり、なおかつ強誘電体であり、さらに磁化と電気分極とが結びついているとすれば、ピエール・キュリーの夢見た物質が実現されることになります。

このような、複数の性質(強磁性、強誘電性、強弾性など)を示す物質をマルチフェロイック物質と呼びます(図2)。このように、電場で磁化を変化させるなど、自明ではない入出力関係も、複数の電子が集まって全体として個々の電子の総和以上の特性が現れる、創発現象の例なのです。

4. 多数の電子スピンから生じる粒子、スキルミオン

図3:スキルミオンの直接観察<br>十倉教授の研究グループは特殊な電子顕微鏡を用いて、世界で初めてスキルミオン粒子一つ一つを観測することに成功しました。<br>© 2015 于秀珍、十倉好紀

図3:スキルミオンの直接観察
十倉教授の研究グループは特殊な電子顕微鏡を用いて、世界で初めてスキルミオン粒子一つ一つを観測することに成功しました。

さらに2010年には、電子スピンからの創発現象として、スキルミオンと呼ばれるまったく新しい粒子の観察を行っています(図3)。これは、十倉教授が現在精力的に進めている創発現象研究の一つです。

スキルミオンというのは、数千個もの電子スピンが渦巻状に集まって、あたかも1個の粒子であるかのように振る舞うようになったものです。やはりこれも個々の電子スピンの状態に還元しても理解することのできない創発現象であり、"スキルミオン粒子"は、ほとんど電力を使わずに移動させることができたり、超巨大な磁場として電子の軌道を変えたり、さらには、単極の磁石のように働く可能性すらあるといいます。

「今の時代は、応用を見据えた実験が大事になってきています」と言う十倉教授は、スキルミオンの興味深い物性にただ魅せられているだけではなく、次世代エレクトロニクスへの大きな可能性があると考えています。ごくわずかなエネルギーで動作する非散逸型の量子回路、つまり、究極のエコデバイスの可能性です。今はまだ夢のような話に聞こえますが、これまでに物理学が起こしてきたイノベーションを考えると、数十年から数百年のうちに可能になるだろうと十倉教授は語ります。

5.創発物性科学研究の未来

高温超伝導体からマルチフェロイクス、そしてスキルミオン。どれも具体的なイメージを描きにくいがゆえに「創発物性科学は難しくて理解できないと言われるのに慣れているんです」と話す十倉教授。一方で、同じ分野の研究者からも様々な研究テーマを渡り歩いているように見えてしまうようです。

しかし、十倉教授本人は「一貫性がないと思われるかもしれませんが、自分の中では筋道が通っているんですよ」と語ります。「1つの原理だけで世界を理解することは難しい」からこそ、単一のロジックに還元することのできない新しい現象を探求し、そのロジックを紡いでいるというのがその真意です。

要素の総和以上の特性が全体として現れる創発現象。個々の要素からは、新しく現れる現象が予測しづらいからこそ、誰も予想しなかったような現象や科学技術分野でのイノベーションが隠れている可能性があります。創発物性科学は、物性物理学における創発現象をひとつひとつ明らかにしていくことで未来を切り開いています。

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こんな解説記事もあります。

磁気スキルミオンは、構成要素のスピンが球を包み込むすべての方向を向いている、トポロジー的に安定したスピン テクスチャです。
ナノメートルの磁気スキルミオンの生成と制御は、スピントロニクスデバイス用途において、消費電力の削減など、大きな可能性を秘めています。
今回は、中心対称構造を持つ二層マンガナイトの薄板に垂直に磁場を加えた状態で実現された、総トポロジカル電荷2を持つ2つの束縛されたスキルミオンの分子形態によって定義されるビスキルミオンの実空間観察を示します。
ローレンツ透過型電子顕微鏡 (TEM) の観点から、ビススキルミオン結晶の歪んだ三角格子が観察されました。
それぞれのビススキルミオン結晶は、逆向きに渦巻くスピン (磁気ヘリシティ) を持つ 2 つの束縛されたスキルミオンで構成されています。
さらに、これらのビスキルミオンが従来の強磁性磁壁よりも数桁低い電流密度(<10(8)A・m(-2))で電気的に駆動できることを実証出来ました。

極小の磁力の渦が記憶素子に? 「電子スピン」の制御研究

渦巻き状に並んだ矢印の列。イラストをみて何を思い浮かべるか。
爆弾低気圧に流れ込む風の向きか。はたまた麦畑に残されたUFOの痕跡か。

実は「電子スピン」と呼ばれる原子サイズの小さな磁石の配列の様子を示しています。
渦巻きの大きさは数ナノ~200ナノメートル程度(1ナノは10億分の1)。
髪の毛の太さの数百分の1以下くらいしかなく、電子顕微鏡でないと見えません。

図:ビスキルミオンの磁気構成。

差出人:層状マンガン石におけるビスキルミオン状態とその電流駆動運動



(a) バイスキルミオン格子のスピンテクスチャ。

(b)ビスキルミオン格子内の面内磁性成分(黄色矢印)分布。

(c,d)バイスキルミオンの過焦点(c)と過小焦点(d)のローレンツTEM画像。

(e)バイスキルミオンのスピンテクスチャの拡大図。aとeでは、色と白い矢印は面内磁化の大きさと向きを表し、暗い色はビスキルミオンのコア(周辺)の上向き(下向き)の磁化を表します。

(b–e)の「プラス」(+)と「マイナス」(−)は、磁気ヘリシティ、つまりそれぞれコアの周りの面内磁化の時計回りと反時計回りの回転方向を示します。それらはz軸に沿った磁化の方向ではありません。

cにおけるスケールバーは100nmに相当する。

磁気渦の新しい生成機構を発見 -磁気渦を情報担体とする磁気記憶素子の実現に期待-

 

スキルミオンによるトポロジカル磁気光学効果観測に成功:スキルミオンメモリの高速光読み取りに道筋

 

Tokura, Yoshinori

 

理化学研究所:創発物性科学研究センター: 強相関物性研究グループ: グループディレクター
十倉 好紀(D.Eng.)

 

「相転移」で無限の可能性を拓く:藤代有絵子基礎科学特別研究員

 

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